Eljudnir ~エルヴィドネル
徒然なるままに、日暮らし、PCに向かひて、心に移りゆくよしなし事を、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。
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前編の続きです。
終わりませんでした…まだ続きます。
当然、現場に一番早く着いたのは私だった。常に腰から下げている「爆発対処7つ道具」から携帯バリアを取り出し、指定されたポイントに展開する。ほどなく、爆破物処理班のヘリコプターがやってきて、携帯バリアを包むように本格バリアを複数重ねた。
待機すること数分。バリアの中の空間が蜃気楼のようにユラリと歪む。かと思ったら、直後。
ドゴーン!
バリアのせいで少しくぐもったような爆発音が響いた。ピラミッド型のバリアの中だけ、もうもうと畑の土埃が舞う。私には、すでに見慣れた光景だ。
少しづつ埃が落ち着く。すると、中にうずくまる一人の人影が見え始めた。
私たち処理班の空気が、やや緊張したものになる。人が無事な姿のまま異世界を飛んでくることは稀だ。意図的に自分の身を防護しない限り、ミンチになってしまう。つまり、人がいた場合は意図的な異世界移動である可能性が高い。
意図的に移動してくる人間は、テロかスパイか逃亡者か…なんにしろ、犯罪者である率が高いのだ。
一番内側のバリアを残し、他のバリアを撤去する。私は腰の警棒を抜き、中の人を睨んだ。
「聞こえる? 手を上げて、立ってください」
人物がぴくりと動いた。顔を上げて辺りを見回し、そろりと立ち上がる。私と目が合った。
ん? どこかで見たような顔。
その人を見たとき、既視感のような感覚があったが、それより仕事が先に立った。
「手を上げてください」
その人物は青年だった。私よりいくつか若そうに見える。見たことはないが、何かの制服を着ており…それは、政府組織のデザインに似ていた。
嫌な予感がする。どっかの諜報か?
青年は大人しく手を上げた。言葉は通じているらしい。
「権利と義務を通告します。ひとつ、あなたはこの世界の情報を故意に収集することは許されない。ひとつ、あなたはあなたの世界の情報を故意に…」
「いやっ、ちょっ、事故です!」
私がすでに暗記している読み上げ事項をさえぎって、青年が困ったように声を上げた。
む? どこかで聞いたような声。
「仕事中に事故で…」
「ひとつ! あなたはあなたの世界の情報を故意に漏らすことは許されない!」
「ハイッ、すいません!」
逆に私がさえぎると、彼はさらに困ったように口をパクパクさせた。何を言ったらいいのか分からないらしい。
私は、彼を爪先から頭のてっぺんまでジロジロと観察する。どうやら、身体に密着するタイプのバリアを展開させているらしい。これがあるから爆発の中でも大丈夫だったのか…ってウチより技術水準高いじゃないか。
「とりあえず、あなたを元の世界に返す手続きしますから」
「はい」
「それまでこちらの指示に従っていただきます。いいですね?」
「はい、よろしくお願いします」
最後に残していた携帯バリアを解除し、自分のポーチにしまう。私がヘリコプターに乗り込むと、青年は大人しくついてきた。
本部に戻って青年を軟禁用の部屋へ詰め込んだ後、長官室へと報告に向かう。デスクに収まっていた長官と顔を合わせ、私は先ほどの既視感の正体に気付いた。
長官に似ているのだ、あの青年。
しかし、本人を前にすると分かるが、長官の若い頃という感じでもない。明らかに同一人物ではないが、もしかしたら親戚かもしれないという印象はあった。異世界に親戚? まさか。
「報告します。異世界難民が一人、予測地点で確保されました」
「難民? 渡航者ではなく?」
「と、本人は言ってます」
「んむ。じゃあ手続きしとく」
「よろしくお願いします。あと、メテオ君」
「おぉう、どうだった?」
「奥さん、ほったらかして寝てましたよ」
長官は頭を抱えた。
「今日は早く帰っていいかな?」
「どうぞ」
最後の言葉だけ笑いながら返し、私は一礼して部屋を出る。
何故か気になった。彼は、誰なんだろう。
それを彼本人に尋ねてはいけない事は、分かっているのだけど。
隊商(キャラバン)ごと飛ばされてきた異世界難民の方々は、運良く数日の滞在で元の世界へ転送された。お役所の手続きが長いのはどこの世界も一緒だが、それにも増して時間がかかるのは異世界移動装置の調整だ。移動先の世界で爆発が起きないよう、影響を最小限に抑えられるように、うまく空間をこじ開けられるポイントを探すのである。そのポイントが、今回はたまたま早く見つかったのだ。長官の家のさつまいもが底を尽きることはなかったが、毎日ふかしたさつまいもでは彼らもいい加減飽きていた頃だろう。
そして、ここにもさつまいもをかじる人物が一人。異世界転送班からの連絡はまだ来ない。逆に運悪く、なかなかポイントが見つからないようである。
「文句を言えた義理ではないのは、分かっていますが」
本日の配給係である私に、青年は言いにくそうに口を開いた。
「えぇと、実家が農業やってまして、芋はそのぅ」
「だーから青年。自分の事は言わない」
どの世界のどの情報が干渉しても、お互いの世界に影響がないとは言えない、というのが現在の通説である。バタフライ効果や「風が吹いたら桶屋が儲かる」と似たような考え方であろう。
だから、異世界難民には名前を聞いてはいけないし、名前を名乗ってもいけない。今が何年でどこの国で、ということも言ってはいけない。相手の出身や最近あったことも聞いてはいけない。そういう決まりである。
青年はまた、困ったように口をパクパクさせてから、再び芋で口を塞いだ。その姿を見ていると憐れになってきたのも、また事実であり。
「しかしまぁ、飽きるのは同意する。おねぇさんがどっかでおごってあげようか」
こんなことを言ってしまうから、仕事が増えるんだろう。
しかし青年の顔がパァッと明るくなるのを見ると、悪い気分はしなかった。決して。
「なぁに、年下の彼氏~?」
「そうよ、いいでしょ」
違うことは分かっていて揶揄するように声をかけてくる同僚の冗談に、笑いながら受けておく。軟禁部屋から連れ出すのは「管理局員の同伴」があれば出来るが、本部施設から外へ出ることは何があっても許されない。ここは、本部の社食である。
ちょうど私もお昼がまだだったから、彼の向かいに座り、トレイに乗せたカツカレーを食べた。
「どこの社食も似たような味ですね」
おごり甲斐のない感想だ。
唯一美味しいと言える天然水のお冷をお替りし、青年にもそれを勧めた。彼は、お冷もラーメンも美味しそうに食べた。
「僕の知り合いにもおねえさんみたいな人がいましてね」
青年が勝手に語り出す。もう、「言うな」と注意するのも面倒臭くなり、私は流すようにそれを聞いた。
「父の部下だったんですけど。面倒見が良くてね、僕のことを小さいうちから世話焼いてくれて」
今は、昼時のラッシュからはずれた時間帯である。テーブルにはまばらに人が座っている。
おそらく、私たちの話を聞いている者はいない。
「母がおっとりした人だったから、色々教わったのはそのおねえさんからでした。あなた、おねえさんに似ています」
頬杖を付くフリをして、目を逸らした。それ以上、聞いてはいけない。
妙な寒気が私を襲った。
「僕が父やそのおねえさんと同じ職を選ぶのは、だから僕にとってはとても自然なことだったんですけど、母のうっかりな血が半分は流れているわけで」
異世界、の定義とはなんだろう。私は同じ時間軸を流れる、異なる空間を持つ世界のことだと教わった。船を持たなかった人間が始めて海を越えて別の大陸へ行けるようになったことと、異世界へ行けるようになったことは似たようなものだと思っていた。
今、ここにいる彼は。
「さっきそのおねえさんのこと、父の部下『だった』、って言った…?」
ただの偶然の一致かもしれない。色々な要素が重なっただけの。でも、それにしてはあまりに。
青年が、私の初めての質問に、ややキョトンとした。
「あぁ」
聞くな。
「父はもう」
喉が渇く。食堂を出入りする人間が妙に気になる。背中に目でも付けようかという勢いで、私は全身をそばだてた。
「数年前の爆破事故で――」
私の携帯電話がけたたましく鳴る。コールは非常音。
「だーかーらー何ー!?」
「な、何?って何が?」
突然不機嫌な私の声に、相手は度肝を抜かれたようだった。少し反省する。
有り得ない勝手な自分の想像に、頭がどうかしていたようだ。
「いや悪かった、ごめんこっちの都合。非常でしょ? 何?」
「うん、転送班から連絡あったよ。『彼』、いつでもいいって」
了解、と告げて電話を切った。青年がこちらを見上げてくる。
「おしゃべりは終わり。帰る準備、出来たってよ」
私はトレイを片付けると、先立って食堂を出た。
<後編に続く>
終わりませんでした…まだ続きます。
待機すること数分。バリアの中の空間が蜃気楼のようにユラリと歪む。かと思ったら、直後。
ドゴーン!
バリアのせいで少しくぐもったような爆発音が響いた。ピラミッド型のバリアの中だけ、もうもうと畑の土埃が舞う。私には、すでに見慣れた光景だ。
少しづつ埃が落ち着く。すると、中にうずくまる一人の人影が見え始めた。
私たち処理班の空気が、やや緊張したものになる。人が無事な姿のまま異世界を飛んでくることは稀だ。意図的に自分の身を防護しない限り、ミンチになってしまう。つまり、人がいた場合は意図的な異世界移動である可能性が高い。
意図的に移動してくる人間は、テロかスパイか逃亡者か…なんにしろ、犯罪者である率が高いのだ。
一番内側のバリアを残し、他のバリアを撤去する。私は腰の警棒を抜き、中の人を睨んだ。
「聞こえる? 手を上げて、立ってください」
人物がぴくりと動いた。顔を上げて辺りを見回し、そろりと立ち上がる。私と目が合った。
ん? どこかで見たような顔。
その人を見たとき、既視感のような感覚があったが、それより仕事が先に立った。
「手を上げてください」
その人物は青年だった。私よりいくつか若そうに見える。見たことはないが、何かの制服を着ており…それは、政府組織のデザインに似ていた。
嫌な予感がする。どっかの諜報か?
青年は大人しく手を上げた。言葉は通じているらしい。
「権利と義務を通告します。ひとつ、あなたはこの世界の情報を故意に収集することは許されない。ひとつ、あなたはあなたの世界の情報を故意に…」
「いやっ、ちょっ、事故です!」
私がすでに暗記している読み上げ事項をさえぎって、青年が困ったように声を上げた。
む? どこかで聞いたような声。
「仕事中に事故で…」
「ひとつ! あなたはあなたの世界の情報を故意に漏らすことは許されない!」
「ハイッ、すいません!」
逆に私がさえぎると、彼はさらに困ったように口をパクパクさせた。何を言ったらいいのか分からないらしい。
私は、彼を爪先から頭のてっぺんまでジロジロと観察する。どうやら、身体に密着するタイプのバリアを展開させているらしい。これがあるから爆発の中でも大丈夫だったのか…ってウチより技術水準高いじゃないか。
「とりあえず、あなたを元の世界に返す手続きしますから」
「はい」
「それまでこちらの指示に従っていただきます。いいですね?」
「はい、よろしくお願いします」
最後に残していた携帯バリアを解除し、自分のポーチにしまう。私がヘリコプターに乗り込むと、青年は大人しくついてきた。
本部に戻って青年を軟禁用の部屋へ詰め込んだ後、長官室へと報告に向かう。デスクに収まっていた長官と顔を合わせ、私は先ほどの既視感の正体に気付いた。
長官に似ているのだ、あの青年。
しかし、本人を前にすると分かるが、長官の若い頃という感じでもない。明らかに同一人物ではないが、もしかしたら親戚かもしれないという印象はあった。異世界に親戚? まさか。
「報告します。異世界難民が一人、予測地点で確保されました」
「難民? 渡航者ではなく?」
「と、本人は言ってます」
「んむ。じゃあ手続きしとく」
「よろしくお願いします。あと、メテオ君」
「おぉう、どうだった?」
「奥さん、ほったらかして寝てましたよ」
長官は頭を抱えた。
「今日は早く帰っていいかな?」
「どうぞ」
最後の言葉だけ笑いながら返し、私は一礼して部屋を出る。
何故か気になった。彼は、誰なんだろう。
それを彼本人に尋ねてはいけない事は、分かっているのだけど。
隊商(キャラバン)ごと飛ばされてきた異世界難民の方々は、運良く数日の滞在で元の世界へ転送された。お役所の手続きが長いのはどこの世界も一緒だが、それにも増して時間がかかるのは異世界移動装置の調整だ。移動先の世界で爆発が起きないよう、影響を最小限に抑えられるように、うまく空間をこじ開けられるポイントを探すのである。そのポイントが、今回はたまたま早く見つかったのだ。長官の家のさつまいもが底を尽きることはなかったが、毎日ふかしたさつまいもでは彼らもいい加減飽きていた頃だろう。
そして、ここにもさつまいもをかじる人物が一人。異世界転送班からの連絡はまだ来ない。逆に運悪く、なかなかポイントが見つからないようである。
「文句を言えた義理ではないのは、分かっていますが」
本日の配給係である私に、青年は言いにくそうに口を開いた。
「えぇと、実家が農業やってまして、芋はそのぅ」
「だーから青年。自分の事は言わない」
どの世界のどの情報が干渉しても、お互いの世界に影響がないとは言えない、というのが現在の通説である。バタフライ効果や「風が吹いたら桶屋が儲かる」と似たような考え方であろう。
だから、異世界難民には名前を聞いてはいけないし、名前を名乗ってもいけない。今が何年でどこの国で、ということも言ってはいけない。相手の出身や最近あったことも聞いてはいけない。そういう決まりである。
青年はまた、困ったように口をパクパクさせてから、再び芋で口を塞いだ。その姿を見ていると憐れになってきたのも、また事実であり。
「しかしまぁ、飽きるのは同意する。おねぇさんがどっかでおごってあげようか」
こんなことを言ってしまうから、仕事が増えるんだろう。
しかし青年の顔がパァッと明るくなるのを見ると、悪い気分はしなかった。決して。
「なぁに、年下の彼氏~?」
「そうよ、いいでしょ」
違うことは分かっていて揶揄するように声をかけてくる同僚の冗談に、笑いながら受けておく。軟禁部屋から連れ出すのは「管理局員の同伴」があれば出来るが、本部施設から外へ出ることは何があっても許されない。ここは、本部の社食である。
ちょうど私もお昼がまだだったから、彼の向かいに座り、トレイに乗せたカツカレーを食べた。
「どこの社食も似たような味ですね」
おごり甲斐のない感想だ。
唯一美味しいと言える天然水のお冷をお替りし、青年にもそれを勧めた。彼は、お冷もラーメンも美味しそうに食べた。
「僕の知り合いにもおねえさんみたいな人がいましてね」
青年が勝手に語り出す。もう、「言うな」と注意するのも面倒臭くなり、私は流すようにそれを聞いた。
「父の部下だったんですけど。面倒見が良くてね、僕のことを小さいうちから世話焼いてくれて」
今は、昼時のラッシュからはずれた時間帯である。テーブルにはまばらに人が座っている。
おそらく、私たちの話を聞いている者はいない。
「母がおっとりした人だったから、色々教わったのはそのおねえさんからでした。あなた、おねえさんに似ています」
頬杖を付くフリをして、目を逸らした。それ以上、聞いてはいけない。
妙な寒気が私を襲った。
「僕が父やそのおねえさんと同じ職を選ぶのは、だから僕にとってはとても自然なことだったんですけど、母のうっかりな血が半分は流れているわけで」
異世界、の定義とはなんだろう。私は同じ時間軸を流れる、異なる空間を持つ世界のことだと教わった。船を持たなかった人間が始めて海を越えて別の大陸へ行けるようになったことと、異世界へ行けるようになったことは似たようなものだと思っていた。
今、ここにいる彼は。
「さっきそのおねえさんのこと、父の部下『だった』、って言った…?」
ただの偶然の一致かもしれない。色々な要素が重なっただけの。でも、それにしてはあまりに。
青年が、私の初めての質問に、ややキョトンとした。
「あぁ」
聞くな。
「父はもう」
喉が渇く。食堂を出入りする人間が妙に気になる。背中に目でも付けようかという勢いで、私は全身をそばだてた。
「数年前の爆破事故で――」
私の携帯電話がけたたましく鳴る。コールは非常音。
「だーかーらー何ー!?」
「な、何?って何が?」
突然不機嫌な私の声に、相手は度肝を抜かれたようだった。少し反省する。
有り得ない勝手な自分の想像に、頭がどうかしていたようだ。
「いや悪かった、ごめんこっちの都合。非常でしょ? 何?」
「うん、転送班から連絡あったよ。『彼』、いつでもいいって」
了解、と告げて電話を切った。青年がこちらを見上げてくる。
「おしゃべりは終わり。帰る準備、出来たってよ」
私はトレイを片付けると、先立って食堂を出た。
<後編に続く>
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